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糖尿病の合併症(1)神経障害

第12回糖尿病教室:

糖尿病の合併症(1)-神経障害ーよく知られていませんが、いろいろな症状があります。

1) 糖尿病の3大合併症は、神経障害(し)、網膜症(め)、腎症(じ)で、「しめじ」と覚えるといいのですが、神経障害はあまり知られていません。医師もあまり注意して問診や診察をしない傾向があります。糖尿病神経障害は、脳や脊髄などの中枢神経の障害ではなく、感覚神経、運動神経、自律神経など、脳や脊髄を出た後の末梢神経の障害です。神経に糖分(ソルビトール)が過剰に蓄積したり、神経を養っている細い血管が詰まることが原因と考えられています。

2) 神経障害は、3大合併症の中で最も早期に出現する合併症です。糖尿病発症後、数年で現れることがあります。よく見られるのは糖尿病性多発性神経障害で、左右対称に足先や足の裏から、しびれ・違和感・痛みなどが出てきます。針で刺したような痛み、ジンジンとしたしびれ、感覚が鈍く重い、ザラザラした感触、歩くと砂利を踏む感じ、紙を1枚張った感じなどと患者さんは訴えます。また、こむら返りも神経障害の症状の一つです。足が冷たくなったり、逆にほてることもあります。

3) 治療後有痛性神経障害:長い間高かった血糖を急に下げると、足がかなり強く痛むことがあります(電撃痛)。1年くらいで痛みはとれます。

4) 糖尿病性神経障害によって足の感覚が低下すると、けがをしやすく、けがをしても痛みが少ないので放置しがちです。傷からばい菌が入ると、足が腐って壊疽になることもあります。

5) 無症候性心筋梗塞:心筋梗塞は、胸が締め付けられる、胸や肩が圧迫される、おされるなどの症状で気づかれますが、糖尿病ではこれらの症状がなく、突然、不整脈や心不全を起こすがあります。体調がすぐれないときには、無症候性心筋梗塞の可能性もありますから、心電図検査をうけましょう。また、定期的に心電図検査をして、普段の波形を記録しておくと、心臓の異常を的確に診断できます。

6) 急性単神経マヒ:突然起こる神経マヒで、動眼神経や顔面神経によく見られます。動眼神経マヒでは、ものが二重に見えます。顔面神経マヒでは、片方の口から食べ物がこぼれたり、片方のまぶたが下がる、目がつむれないなどの症状があります。動脈瘤や脳梗塞など、脳の病気でも同じ症状が出ますから、脳のCT検査など精密検査が必要な場合もあります。

7) 自律神経って?:自分で律する、つまり意思とは無関係に勝手に働いている神経です。興奮した時に活動が活発になる「交感神経」と、睡眠中などリラックスした時に働く「副交感神経」があります。自律神経は、脈拍・血圧、胃の運動、腸の運動・消化・吸収、汗、排尿などの調節をしており、自律神経が障害されると、立ちくらみ、胃のもたれ、消化不良、下痢と便秘、上半身の発汗↑、残尿など、様々な症状が出現します。

8) 糖尿病性胃障害:胃の働きが悪くなるため、食物の消化・吸収が不安定になり、糖分の吸収が一定しないことから血糖の上下が大きくなる=血糖のコントロールが非常に不安定になります。また、お腹がはったり、胃がもたれたりします。症状が強い場合には、胃の運動を改善する薬をのんだほうがいいでしょう。

9) 無自覚低血糖は危険です!:血糖が50~70mg/dlに下がると、交感神経の活動が活発になりイライラ、眼がちらつく、動悸、冷や汗、顔面蒼白などの症状が出てきます。しかし、糖尿病性神経障害で交感神経の活動が低下すると、このような低血糖を警告する症状が出ないため、いきなり昏睡になる危険性があります。また、交感神経の働きが低下すると、アドレナリンや副腎皮質ホルモンなど血糖を上げるホルモンの分泌も障害されるため、血糖が下がりやすくなります。血糖が70mg/dlをきっても自覚症状のない方は注意が必要です。

10)         糖尿病神経障害の薬:残念ながら、神経の痛みやしびれを完全に無くす特効薬はありません。しかし、痛みがあるときは、メキシレチンといって麻酔薬に似た構造の薬が効きます。また、頑固なしびれには、抗けいれん剤や抗うつ剤などが効果あります。足の冷えには、プロスタグランジンのような血流を改善する薬がいいでしょう。キネダックは、糖尿病神経障害の進行を抑えるといわれています。こむらがえりにも有効です。八味地黄丸、牛車腎気丸などの漢方薬が効くこともあります。

11)         糖尿病神経障害の検査:アキレス腱反射や、振動覚検査(音叉を足首に当てて振動を感じる時間をはかる)は診察室で簡単にできる検査です。心電図で、心拍の呼吸による変動(息を吸うと心拍数が減少します)を計測して、この変動が少ないと自律神経障害があると診断できます。

12)         神経障害の対策:糖尿病神経障害は血糖コントロールを良好にすれば(少なくともHbA1cが7%未満)、発症や進行をある程度抑えることができます。ただし、血糖が長い間高かった場合には、治療後有痛性神経障害を起こさないために、血糖を急激に下げないほうがいいでしょう。また、糖尿病神経障害では、足のけがから壊疽になることもありますから、風呂に入ったときや、風呂上りに足をよく観察しましょう。

今城内科クリニック