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糖尿病と高血圧

第18回糖尿病教室:

「高血圧と糖尿病」―血圧が高いと糖尿病の合併症が進みやすくなります-

1) 高血圧の診断基準:高血圧は測定した血圧の値で診断します。2004年に発表された高血圧学会の診断基準では、病院などの外来で測定した血圧が140/90以上、家庭で測定した血圧が135/85以上であれば、高血圧と診断します。上か下の血圧いずれかが基準値を超えれば高血圧になります。つまり、150/70も、120/95も高血圧です。

2) 血圧が上がると脳卒中・心臓病の危険が増加します:血圧が140/90を超えると脳梗塞の発症率が倍に増加することが、九州の久山町研究で明らかになっています。また同じ研究で、上の血圧が140を超えると、心臓病・脳卒中での累積死亡率が増加することも報告されています。

3) 仮面高血圧:診察室で測った血圧が正常で、家庭など診察室以外の血圧が高いことを、「仮面高血圧」と呼びます。これは、診察室の血圧が高く家庭での血圧が低い「白衣高血圧」と逆の関係になります。

4) 仮面高血圧のタイプ(1):朝起きたときに血圧が上昇する「早朝高血圧」は、脳卒中や心筋梗塞などの危険性が増加します。朝起きた後の数時間は、脳卒中や心筋梗塞の発作が多い魔の時間帯です。血圧の薬をのんでいる方では、朝起きて薬をのむ前まで血圧の高い傾向があります。最近の降圧剤は24時間持続的に血圧を下げる薬が多いのですが、それでも朝起きた後の薬の血中濃度は低く、血圧が下がりにくいのです。

5) 仮面高血圧のタイプ(2):就寝中に血圧が上がる「夜間高血圧」は、睡眠時無呼吸症候群や心不全・腎不全などで見られます。

6) 仮面高血圧のタイプ(3):職場・家庭のストレスや、喫煙で血圧が上昇する「ストレス高血圧」もあります。

7) 仮面高血圧では、心筋梗塞や脳卒中の危険性が正常血圧に比べて上昇しており、持続性の高血圧と危険性はあまり変わりありません。ですから、家庭で血圧を測って、病院の血圧と比較して、ご自分が仮面高血圧かどうか確かめてください。また、血圧は、飲酒・喫煙、食事、運動、気温、ストレスなどで、変動します。測定値で一喜一憂することなく、継続して測りましょう。

8) 家庭血圧の測り方:腕にカフを巻きつけて測るタイプがお勧めです。朝は起きて1時間以内、排尿後に座って1-2分安静にして、朝食前・服薬前に測りましょう。夜は、就寝前に座って測定しましょう。血圧はノートに記入して、主治医に相談してください。

9) 日本人の塩分摂取量は、昔は1日20g前後でしたが、この20年は11~12gくらいまで減少しています。パプアニューギニアやヤノマモなど、未開の地域では塩分摂取量は3g以下で、収縮期血圧は100前後ですが、日本では北に行くほど塩分摂取量が多くなっており、塩分摂取量と血圧の間に正の相関が見られます。

10)         塩分摂取量を1日6-8g以下に減らすと、血圧は低下します。日本人の塩分摂取量の平均が11~12gなので、半分に減らす必要があります。そのためには、何にでも塩、しょうゆ、ソースなどをかけないようにする、しょうゆやソースはおかずにかけないで一度皿にとってから使う(つけるようにする)、食卓にふりかけや佃煮を置かない、ラーメンやうどんの汁は残す、外食するなら単品より定食を選ぶ、などの工夫をして塩分を減らしましょう。

11)         「生活習慣の改善で血圧は下がります」:生活習慣改善による降圧効果を検討した米国の研究では、収縮期血圧の低下は、10kgの減量で5〜20、DASH食(果物・野菜を多くして、飽和脂肪酸を減らした低脂肪食)で8~14、1日6gの塩分制限で2~8、早足毎日30分以上の運動で4~9、適度のアルコール摂取で2~4、期待できる報告されています。塩分摂取量が多い日本人では、減塩の効果はさらに大きいと思います。血圧の薬が収縮期血圧を10~20程度下げることを考えると、生活習慣の改善は薬に匹敵する効果があります。

12)         血圧が高いと糖尿病の合併症は発症・進行しやすくなります:日本人の糖尿病患者さん数千人で合併症の発症を調べた研究(JDCS2005年中間報告)では、糖尿病性腎症発症の危険因子の第1番目は収縮期血圧>130で、2番目以下は、中性脂肪が高い、体重が重い、HbA1c>7%、と続きます。また、糖尿病網膜症発症の第一の危険因子は、HbA1c>7.0%で、2番目が収縮期血圧>140です。この研究から、高血圧は糖尿病の合併症発症の強い危険因子であることがわかります。

13)         血圧コントロールは血糖コントロールと同じくらい合併症予防効果があります。英国の大規模臨床試験(UKPDS)では、血圧を厳格にコントロールすることにより、糖尿病関連死が32%、脳卒中が44%、腎症の進行が37%、網膜症の進行が34%、視力障害が47%、心不全が56%減少したと報告されています。また、HbA1cを1%下げると、糖尿病関連のリスクは21%低下しますが、収縮期血圧を10下げることによってもリスクは11%低下しています。この効果は血糖低下作用とは独立して見られるので、高血圧治療は糖尿病の合併症の発症・進展を予防することが明らかになりました。

14)         まとめ:糖尿病では、血圧のコントロールは血糖コントロールと同じくらい、合併症の発症・進展の予防に重要です。家庭での血圧測定は仮面高血圧の診断に必須ですから、朝と夜2回測定して記録を残しましょう。

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