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高脂血症と糖尿病

第19回糖尿病教室:糖尿病と高脂血症、

コレステロールだけでなく中性脂肪も動脈硬化を進めます

1) コレステロールはとても重要な物質です:コレステロールは細胞膜の重要な構成要素であるだけでなく、副腎皮質ホルモン、性ホルモンなどの原料となります。また、肝臓ではコレステロールから胆汁が合成され、腸からの脂肪吸収を助けています。

2) コレステロールは貴重品?:大昔、コレステロールが含まれている肉は大変貴重品であったため、食事中のコレステロールは効率よく腸から吸収されます(吸収率50%)。また、一度体に入ったコレステロールは、繰り返し利用されてほとんど代謝されません。従って、脂肪のたくさん入った食品が氾濫する現代では、コレステロールは過剰になる運命にあります。

3) 高脂血症の診断:動脈硬化学会の診断ガイドライン(2007年版)では、LDL-コレステロール(悪玉)140mg/dl以上、HDL-コレステロール(善玉)40mg/dl未満、中性脂肪150mg/dl以上のいずれかがあれば、「脂質異常症」と診断します。HDL-コレステロールが低い場合も「高脂血症」と呼ぶのは妥当ではないため、今年の改訂では「脂質異常症」という呼び名に変わりました。

4) 高脂血症では、血管の内膜と筋層の間にコレステロールが沈着します:悪玉コレステロール(LDL)は、肝臓から細胞にコレステロールを運びますが、余分なコレステロールは血管に沈着します。一方、善玉コレステロールは、血管に沈着したコレステロールを引き抜いて肝臓に戻す働きがあります。ですから、悪玉コレステロールが高い、或いは善玉コレステロールが低いと、コレステロールが血管の壁に沈着して動脈硬化は進むのです。心臓の血管の動脈硬化で狭心症や心筋梗塞などが、脳の血管の動脈硬化で脳梗塞が起こります。

5) 血中の総コレステロール濃度が増加すると、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の危険度が上がります:総コレステロールが200mg/dlのときの、冠動脈疾患の相対危険度を1とすると、250mg/dlでは2倍に、300mg/dlでは4倍に危険度が上昇します。

6) LDL-コレステロールが増加しても、冠動脈疾患の相対危険度はやはり上昇します。

7) 善玉コレステロール(HDL-C)が40mg/dl未満に低下すると、虚血性心疾患や脳梗塞の合併率が増加します(厚生省特定疾患、原発性高脂血症調査研究班、昭和61年度報告書)。

8) 心筋梗塞を起こした血管では、動脈硬化によって血管の内腔が次第に細くなって、ついには詰まってしまうわけではありません。コレステロールなどが動脈の壁にたまって盛り上がった状態をプラークと呼びますが、このプラークの一部が破れてそこに血の塊ができるために、血管が詰まるのです。破れやすい不安定なプラークが心筋梗塞の原因と考えられています。

9) 糖尿病の半数以上の方で、高脂血症を合併します:当クリニックに来られた糖尿病患者さん175名のうち、LDL-コレステロールの上昇は65名、中性脂肪の上昇は62名、HDL-コレステロールの低下は18名に認められました。2つ以上の異常が重なる患者さんもいらっしゃるので、175名中、98名の方で脂質異常症があることになります(56%)。

10)         高脂血症に糖尿病が合併すると心筋梗塞の発症率は約2倍に上昇します(J-LIT研究)。この研究では、心筋梗塞の発症率はLDL-コレステロールが10mg/dl増えると17.3%増加し、HDL-コレステロールが10mg/dl低下すると34.9%減少しました。

11)         糖尿病ではより低いLDL-コレステロール値から、心血管疾患の危険度が高くなります:糖尿病ではない方では、LDL-コレステロールが160mg/dlを超えると、心血管疾患の相対危険度が上がりますが、糖尿病の方では、120mg/dlを超えたところから危険度が上昇します。ですから、糖尿病の方は、LDL-コレステロールを120mg/dlよりも低く下げる必要があります。

12)         コレステロールはスタチン系という薬で十分に低下します:リピトール10mgを3ヶ月以上服用すると、総コレステロールは30%、LDL-コレステロールは40%下がります。つまり、LDL-コレステロールが200mg/dlであっても、リピトール10mgのめば120mg/dlまで下がるので、十分に目標値を達成できるわけです。

13)         コレステロール低下薬で心血管病の発症率が低下します:Heart Protection Studyではリポバスの投与で、糖尿病、非糖尿病どちらでも、心血管病の発症は有意に抑制されました。また、糖尿病の方を対象としたCARDS研究では、リピトールの投与で心血管病の発症が約半分に抑制することが明らかとなりました。

14)         中性脂肪が上昇すると心筋梗塞の危険が高まります:空腹時の中性脂肪値が150~165mg/dlを超えると、冠動脈疾患の発症率が2~3倍程度に上昇します。

15)         中性脂肪が高いとなぜ動脈硬化が進むのでしょうか?:中性脂肪はコレステロールのように動脈の壁に沈着するわけではありません。中性脂肪が高くなると、①HDL-コレステロールが低下する、②超悪玉コレステロール(小型LDL)が増加する、③血栓ができやすい、④中性脂肪が高い人は内臓脂肪が多く、血圧や血糖が高めになるので動脈硬化になりやすい(メタボリック症候群)、など、間接的なメカニズムで動脈硬化を促進すると考えられています。

16)         中性脂肪を薬で低下させると、心血管疾患の発症が低下します:糖尿病の方を対象としたFIELD試験で、中性脂肪を下げるリパンチルという薬が、心筋梗塞や心血管疾患の発症を抑制するという結果が報告されています。

17)         コレステロールを下げすぎても、癌などの病気が増えることはありません。9万人が対象になった14のコレステロール低下療法の大規模臨床試験を解析した結果、癌の増加は認められませんでした(Lancet 2005年)。肝臓病や癌の素因などがあって、コレステロールが低下していた人に癌の発生が多い可能性はあります。

18)         コレステロールはどこまで低下しても大丈夫でしょうか?LDL-コレステロールは、狩猟民族、健康な新生児、ヒト以外の霊長類では、50~70mg/dlと、現代人の半分くらいです。これ以下に下がらなければ、あまり問題ないと考えられます。

19)         コレステロールをたくさん含むイカやタコ、エビは控えたほうがいいでしょうか?例えば、イカ80gにはコレステロールが240mg含まれています。コレステロールが高い人は、コレステロールの摂取量を1日300mg以下にしたほうがいいので、イカだけで1日分のコレステロールに近づきます。しかし、イカに含まれる脂質は豚肉の38分の1しかありません(良質な蛋白を含み脂質は少ないのです)。また、魚介類はコレステロールを下げるタウリンを含んでいるので、厳しい制限をする必要はありません。それよりも、飽和脂肪酸を少なくする(肉よりは魚)、食物繊維を多く食べてコレステロールの吸収を抑えることが大事です。

20)         卵は控えたほうがいい?卵1個にはコレステロールが235mg含まれます。しかし、卵とコレステロールの関係には個人差が大きいため、1日1個食べてもコレステロールが上がらなければ問題ありません。ただし、食べすぎはカロリーオーバーになるので注意してください。

21)魚の脂には不飽和脂肪酸が多く含まれており、コレステロールに影響を与えません。特に、EPAやDHAには悪玉コレステロールや中性脂肪を下げる効果があり、EPAは薬として発売されています。ただし、不飽和脂肪酸も脂には違いないので、食べ過ぎるとカロリーオーバーになるので注意しましょう。

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